ノビレチン  健康情報室

人生100年時代、
認知機能の低下に不安を感じている人が多いなか、
シトラスフラボノイド「ノビレチン」の
健康効果が注目を集めています。
そこで国立長寿医療研究センター老年内科部長で、
認知症に関する著作・講演でも知られる遠藤英俊先生に、
認知機能とノビレチンについてお話をうかがいました。

遠藤 英俊 先生

国立長寿医療研究センター 
長寿医療研修センター長 老年内科部長

1982年滋賀医科大学卒業。1987年名古屋大学医学部大学院卒業。米国国立老化研究所客員研究員を経て、国立療養所中部病院内科医長となる。2004年に国立長寿医療センター包括診療部長、2010年より現職。日本認知症学会理事。

<最新著書>
「ボケない!“元気脳”のつくり方 」
(世界文化社)

認知症は“予防する”時代に

認知症と認知機能低下は違う!

認知機能ってそもそも何?

認知機能は脳の働き全体を指しますが、そのなかでも今一番注目されているのが「記憶」です。正常な脳なら、生活に必要な情報を取り入れ、それを保持し、再生することができます。
ところが加齢によって 脳が萎縮すると、覚える力や思い出す力が低下してきます。 記憶はその人らしさを形づくる大事な要素なので、その認知機能が低下する認知症は社会的にも大きな問題になっているのです。

年をとると誰でも認知症になる?

認知症になるリスクは65歳以上で15%から20%ですから、ほとんどの人は年をとっても記憶を保てますし、とくに体で覚えた記憶は忘れにくいものです。しかし年をとると誰でも新しいことが苦手になったり、覚えられなくなったりという認知機能の低下が起こります。それでも生活に支障がないなら認知症ではありません。たとえば買い物に行ったことを忘れる、同じ物を買ってしまう、買ってきてもどう料理するかわからないなど、記憶や体験がすっぽり抜け落ちてしまう場合は認知症と診断されます。

加齢で脳にゴミが溜まる!?

認知機能の低下は防げるの?

認知症の約半数を占めるアルツハイマー型の場合、発症の20〜25年前から脳に変化が起きています。
50、60代で、脳のゴミともいえるたんぱく質(アミロイドβ)が徐々に溜まり始めるのです。
アミロイドβが沈着すると脳の中にシミのような“老人斑”が広がり、やがて神経細胞を減らして、脳のネットワークまで壊してしまいます。
アミロイドβの排出を促すためには、脳の血液循環を高められるかどうかがカギです。もっとも効果があるのは有酸素運動です。同時に、バランスの良い食事と、脳を使うような社会活動も重要です。
認知機能の低下を防ぐためには、次の「3つの行動」を50代から取り組むことをおすすめします。

認知機能維持に重要な3つの行動

  • 運動
    効果的なのは有酸素運動です。ハードではなくても、軽く息が上がる程度で大丈夫。1日30分、週に3回を目安に続けましょう。
  • 食事
    3度の食事で多種類の食品を摂りながら、さらに認知機能を維持する働きのある食品成分・サプリメントを上手に利用しましょう。
  • 社会・知的活動
    趣味や興味を持ち続けて行動し、日常生活を楽しむことを心がけてください。また、読書などの知的活動も大切。いずれも脳の活性化に役立ちます。

「食」で認知機能を活性化したい!

発症を4割減らせる食事とは?

最近の研究からわかった食が持つチカラ

認知機能を維持したり、高める食品については、現在さまざまな研究が行われています。
なかでも世界的な注目を集めているのが「認知症予防食」と呼ばれるバランスの良い献立です。
福岡県久山町で行われている大規模な疫学調査の結果から、大豆製品、乳製品、野菜、海藻類を積極的に摂ると、摂らない人よりも認知症発症リスクが4割低くなることがわかりました。ただし一度に多く摂取しても意味はありません。毎日続けることが何より大切です。※1

※1Zhang S. et al., Citrus consumption and incident dementia in elderly Japanese: the Ohsaki Cohort 2006 Study. Br J Nutr. 2017.117(8):1174-1180.

効果的な4つの食材

  • 大豆・大豆製品
    豆料理、納豆、豆腐
  • 牛乳・乳製品
    牛乳、ヨーグルト、チーズ
  • 緑黄色野菜・淡色野菜
    かぼちゃ、にんじん、小松菜など(緑黄色野菜)
    白菜、レタス、玉ねぎなど(淡色野菜)
  • 海藻類
    わかめ、昆布、めかぶ、もずく

長寿の秘訣は沖縄に

沖縄の長寿「食」について

1990年代まで沖縄県は認知症の有病率が低いことで知られています。私も、沖縄で長寿のライフスタイルを研究しました。沖縄のおじい、おばあは体をよく動かし、みんなとお喋りして、野菜や昆布などを多く摂るバランスの良い食事を、腹八分目でとっていました。だから日本一の長寿が叶ったのだと思います。
私がとくに注目したのは、大宜味村で食べられている柑橘類シークヮーサーです。 柑橘類を毎日摂取している人は、週2回以下の人に比べて認知症発症リスクが下がるという報告があるほど、柑橘類は認知症予防が期待される食品なのです。※2

 実は、シークヮーサーには、「ノビレチン」という 
 特長的な食品成分が多く含まれているのです。

 実は、シークヮーサーには、
 「ノビレチン」という特長的な
 食品成分が多く含まれているのです。

※2Ozawa, M.et al., Dietary patterns and risk of dementia in an elderly Japanese population : the Hisayama Study. (2013) Am J Clin Nutr, 97:1076-1082.

「ノビレチン」で
認知機能の維持が期待できる

ノビレチン研究はここまで進んだ!

ノビレチンの最新研究

ノビレチンに関する研究は着実に進んでおり、アルツハイマーモデルのネズミの脳による実験から、脳のゴミといわれるアミロイドβが溜まりにくくなることが報告されています。
さらに最近では、新たな研究成果が続々と発表されています。その主な研究成果が次の3つです。

1神経細胞の突起伸長

PC12細胞の培養液にノビレチンを添加して培養。
添加48時間後の顕微鏡写真。

ノビレチンを神経細胞に添加する実験で、神経突起が伸びて活性化するという結果が出ました。 脳内のネットワークに新たな迂回路がつくられる可能性があるので、記憶が保たれやすくなります。ノビレチンを摂取すると同時に、脳を使うような楽器演奏、語学、将棋・囲碁など知的活動を並行して行うと、さらに効果的でしょう。

2発見!DHAで相乗効果

【試験方法】
神経細胞モデルのPC12細胞において、ノビレチンを培養液に添加して培養。
添加48時間後に顕微鏡で観察。

【評価方法】
顕微鏡写真を基に、突起伸長を起こした神経突起の中で、
細胞の直径よりも長いものに関して数を計測。その数を対照群と比較し、評価。

ノビレチンの作用を増強するような他の食品成分を探した結果、DHAが高い相乗効果を示すことが明らかになりました。 つまりノビレチン+DHAの組み合わせによって、1足す1が2ではなく、3ぐらいの効果が期待できます。

3脳へ浸透

モデル細胞の実験によりノビレチンの透過性を調べた結果、脳への移行が高いといわれるカフェインと同等の透過性が確認されました。 これはノビレチンを摂取したら脳に届くと推測できるという意味です。
以上のような結果から、ノビレチンは中高年の認知機能の維持に対して効果が期待できると考えています。

ノビレチン研究の未来

基礎実験の段階が終わり、次はヒトへの効果を確かめる新たな段階へ進みました。この調査研究には時間がかかりますが、ポテンシャルの高い食品成分ですから期待を持って取り組みたいと思います。
人生100年時代といわれる今、元気なら100歳まで生きたいと願う人はたくさんいらっしゃるでしょう。その「元気なら」のために、柑橘フラボノイド「ノビレチン」が役立つことを期待しています。